厚生年金と共済年金
2004年5月11日
宇佐美 保
1) | 厚生年金の積立金は163兆円以上の運用損失を出している(平成9年度) |
「厚生年金」(勿論、「国民年金」も)赤字なのに、「共済年金」が黒字と云われている。
従って、この3つの年金の一元化を行う前に、赤字の年金と黒字の年金の相違を徹底的に比較追求して欲しいと、民主党に要望のメールを出してきました。
(拙文《一元化の前に共済年金の実態を明らかに!》などを御参照下さい)
でも、この件に対しての回答は得られませんでした。
そこで、自分で「共済年金」を調べてみようと、『年金白書平成9年度版(厚生省年金局)』
(厚生大臣小泉純一郎氏が、前書きを書いています)を、めくってみましたら、次の数字を見付けました。
区分(平成9年度) | 適用者数(万人) | 積立金(兆円) |
厚生年金 | 3300.0 | 118.5 |
共済組合合計 | 582.4 | 45.1 |
合計 | 3882.4 | 163.5 |
この数字から次の結論を導きました。
年金優等生の「共済年金」が、582.4万人の共済組合員でもって、45.1兆円を積み立てているのですから、3300万人の厚生年金加入者の積立金を、「共済年金」に倣って、運用していたら、どうなったかを、下記の通りに計算しました。
((共済組合の積立金)/(共済組合の全適用者数))×(厚生年金適用者数)
=(45.1/582.4)×3300=281.1兆円
即ち、
「厚生年金積立金」が「共済年金積立金」同様に運用されていたら、今の積立金の118.5兆円は、当然ながら、その2.37倍の281.1兆円となっていなくてはならないのです。 |
従って、「厚生年金積立金」は、その差額の162.6兆円の損失を運用損失として計上しなくてはならないのです。
(他にも、「共済年金」の仕組みを解説した本を家の近くの本屋や図書館で探しましたが、残念ながら、見付けることが出来ませんでした。)
2) | 年収の11%の積み立て金を、年3.2%の複利で運用していれば、年金は年収の約7倍貰える |
今回の年金改革案で、政府は今度の年金の運用利回りを、3.2%としましたが、これだけの利回りが出れば、充分積立金方式で年金が運用出来ます。
例えば、20歳から45歳まで、給料が上がらない事も含めて、一定金額(毎年X円)を積み立てて、65歳から、それ以降、平均余命である20年間(85歳まで)を年金(毎年Y円)支給されるとすると、年金を支払った金額に対する、年金として受け取る金額の割合は、当然、次のようになります。
20Y/45X
ここで、拙文《インチキ評論家が年金は黒字と嘘を言う》に掲げた式で計算しますと、約2.88倍となります。
更に、毎年受け取る金額(Y)を毎年払った金額(X)で割った値を計算しますと、6.32倍となります。
従って、年収の11%を収めていれば、11%×6.32=69.5%
と計算出来ますから、年収の69.5%を年金として受け取れるのです。
しかし、何も複雑な計算をしなくても、この事実の概略は掴めます。
45年で積み立てた金額を、20年で受け取るのですから、
毎年受け取る金額(Y)=毎年払った金額(X)×(45/20)
=毎年払った金額(X)の2.25倍
更に、45年かけて積み立てたお金(S)を、銀行に年利3.2%で預けて、毎年一定額受け取り、20年間で全ての銀行残高が0となるように受けとる、その毎年の受け取り金額はいくらとなるか?
それは、S/20 より当然大きな値です。
この計算は、銀行がやってくれます。
簡単なのは、住宅ローンです。
例えば、年利3.2%で1000万円を住宅ローンで借りると、月々の返済額は、5万6466円と計算してくれます。
これを20年間払うと、5万6466円×12×20=1355万1840円と計算してくれます。
ですから、20年間年利3.2%で借り入れると、借りたお金の1.355倍は返さなければいけません。
と云うことは、今度は自分が、年金として預けたお金を受け取る際には、1.355倍受け取れるのです。
更に、3.2%で45年も複利で積み立て居れば、大体倍位にはなりましょう。
これらを全て掛け合わせますと、
2.25×1.355×2=6.0975=約6倍
先ほどの計算値の、6.32倍とほぼ同じです。
積立金方式が、成り立たなければ、銀行や、生命保険や、郵便局などの民間の年金システムは成り立ちません。 |
当たり前ですよね。
年金は先ずは、積立金方式が基本なのです。
(不具合が有れば、これを基本に修正を加えるべきです。)
ですから、年金事業には、積立金の運用が一番大事なのです。
3) | 「積立金方式を無視する」ジャーナリスト藤瀬達哉氏の大罪 |
藤瀬達哉氏は実に貴重なスクープをされています。
(拙文《「年金」で「自己責任」を負わされる国民》にも同文を引用しましたが)
氏の著作『年金崩壊(講談社発行)』に、次の記述があります。
……厚生省の外郭団体の一つ、厚生団(現・厚生年金事業振興団)が企画した「厚生年金保険の歴史を回顧する座談会」でのものである。…… その第一回の席上、…… 花澤氏の証言――。 「この資金を握ること、それから、その次に、年金を支給するには二十年もかかるのだから、その間、何もしないで待っているという馬鹿馬鹿しいことを言っていたら間に合わない。戦争中でもなんでもすぐに福祉施設でもやらなければならない。 そのためにはすぐに団体を作って、政府のやる福祉施設を肩替りする。……そして年金保険の掛け金を直接持ってきて運営すれば、年金を払うのは先のことだから、今のうち、どんどん使ってしまっても構わない。使ってしまったら先行困るのではないかという声もあったけれども、そんなことは問題ではない。……早いうちに使ってしまったほうが得する。 二十年先まで大事に持っていても貨幣価値が下がってしまう。だからどんどん運用して活用したほうがいい。何しろ集まる金が雪ダルマみたいにどんどん大きくなって、将来みんなに支払う時に金が払えなくなつたら賦課式にしてしまえばいいのだから、それまでの間にせっせと使ってしまえ」 「賦課式」というのは、支払うべき年金額に応じた掛け金を、そのつど集めるという方式である。積立金を持つ現行方式(修正賦課方式とも、修正積立方式ともいう)に比べて、掛け金が高くなるとして、厚生労働省は、この方式に一貫して否定的な見解を示してきた。 しかし、自分たちの勝手な支出によって積立金をなくしてしまったとしても、賦課方式にすれば、なんとでも帳尻を合わせられると言うのだから、そのいい加減さ、ご都合主義には、もはや言葉もない。実際、国家公務員共済年金を所管する財務省の担当者も、地方公務員共済年金を所管する総務省の担当者も、この年金官僚の本音の前には、あ然としてしまったほどだ。 |
(花沢氏:戦前の厚生年金保険課長で、厚生年金の前身、労働年金保険法を起案した)
この「年金事業の最重要課題である積立金の運用」を無視する花沢発言こそが、「年金事業」を赤字に突き落として元凶であることが明白なのです。
更に、藤瀬氏は、この花沢発言に対して、
「国家公務員共済年金を所管する財務省の担当者も、地方公務員共済年金を所管する総務省の担当者も、この年金官僚の本音の前には、あ然としてしまったほどだ」
と書いているのです。
この事は当然、先の私の計算、指摘通りに、花沢発言と反対に、
「共済年金の担当者」達は、「年金」を本質である「積立金の運用」を心懸けていた |
証明でもあるのです。
ところが、藤瀬氏は、この花沢発言をこれ以上糾弾していないのです。
そして、花沢氏最終的な目論み通りに、
藤瀬氏は率先して「厚生年金」は、「積立金方式ではなく、賦課式(世代間扶養)」的思考にドブ浸かりとなっているのです。 |
この証拠は、次の藤瀬氏の愚劣極まりない記述です。
われわれの掛け金を管理する「年金特別会計」(厚生保険特別会計と国民年金特別会計)では、おもに四つの業務をおこなっている。 一つは年金の支払いである。これは毎年、納入された掛け金のなかから、厚生年金や国民年金の受給者に年金を支払う基本業務だ。 二つ目が福祉業務である。…… これら二つの業務において、その年度内に納められた年金掛け金の大半が支出されるが、それでもなお、年金財政は赤字にはならない。二〇〇〇年度の場合、掛け金などの収入合計三七兆円に対し、支出合計は三一兆六〇〇〇億円。差し引き五兆四〇〇〇億円の剰余金が出ている(予算ベース)。 厚生労働省の″年金崩壊キャンペーン″が強く印象に残っている読者は、意外に思われるかもしれないが、「年金特別会計」はこのように、一応健全な財政状況にある。この差し引いて残った剰余金を、積立金として運用するのが三つ目の業務である。 そして、これら三つの業務に携わる職員の人件費や諸経費などを管理するのが、四番目の業務となる。…… |
この藤瀬氏の「納入された掛け金のなかから……年金を支払……差し引いて残った剰余金を、積立金」では、全く花沢氏の目論みの最終段階である、「賦課式」(世代間扶養)そのものではありませんか!?
年金の支払いを「納入された掛け金のなかから」行ってはいけないのです。
なにしろ、「納入された掛け金」は、現在、年金を貰っている人の為のお金ではなく、現在払っている人達の将来の年金の為です。
年金の支払いは、あくまでも「現在年金を受け取っている人達が積み立てた積立金」から支払われるべきです。
この様に「積立金」を運用すべきです。
この分かり切ったことを、真面目に打ち込んできたのが「共済年金」ではありませんか?
ですから、藤瀬氏は、「年金特別会計」の業務の第一番目に「積立金の運用業務」を掲げるべきなのです。
そして、もっと「共済年金に実体」を調べて欲しいのです。
年金改革は、ここが振り出しです。
そして、折角、藤瀬氏は、次のように記述しているのに、その後、更に突っ込んだ「国民年金」と「共済年金」との比較を怠っているのです。
いずれの年金制度も、「自分が若いときに納めた保険料(掛け金)の見返りとして年金をもらえる」(『21世紀の年金を「構築」する』厚生省年金局)もので、社会保険方式と呼ばれている。これは、二五年以上にわたって掛け金を納めなければ年金を受け取ることはできないが、掛け金を多く、しかも長い期間納めれば、それに応じてより多くの年金が受け取れるという制度である。 一般に年金の財源は、加入者が納めた掛け金とその掛け金の一部が蓄積された積立金の運用益収入、それに国庫負担金が加えられたものだ。これらの年金財源は、厚生年金、国民年金の場合、「年金特別会計」(厚生保険特別会計と国民年金特別会計)に繰り入れられ、厚生労働省で運営・管理される。一方、共済年金のほうは、国の直接管理ではなく、加入者からなる共済組合で管理されている。…… ところが、現実にはわれわれの掛け金は年金の給付目的以外にも使われていたのである。 今回調べてみると、公的年金制度の理念を頑なに守っていたのは、公務員と私立学校教職員のための共済年金だけだった。厚生年金も国民年金も、掛け金の一部が″流用″され、厚生労働省が抱える各種施設の建設費、維持管理費ばかりか、それら施設を運営する特殊法人や財団法人の人件費、物件費などに使われていた。…… |
ここでの、藤瀬氏の記述は、
年金は、積立金方式によって運用されるべく「共済年金のほうは、国の直接管理ではなく、加入者からなる共済組合で管理されている」のに反して、何故か「厚生年金、国民年金の場合」は、「厚生年金、国民年金の場合、「年金特別会計」(厚生保険特別会計と国民年金特別会計)に繰り入れられ」ている。
と云う重大な問題点(「共済年金」と「厚生年金」での、積立金の運用方法の相違)を提起しながら、この点を掘り下げていないのです。
(何故、「厚生年金、国民年金の場合」国が管理してしまうのか!?) |
そして、藤瀬氏の追及は、「厚生年金も国民年金も、掛け金の一部が″流用″され……」に移ってしまうのです。
この流用では、藤瀬氏が綴るように、「9兆円以上の年金財源が失われた!」程度になってしまうのです。
それよりも、私が第1項で指摘した、「厚生年金の積立金は163兆円以上の運用損失を出している」に比べると、誤差のような損失を穿り返しているのに終わってしまい、挙げ句の果ては「年金の積立金は十分にある」等と書いてしまっているのです。
かくして、藤瀬氏は、官僚達の音頭取りに踊って「年金は世代間扶養」の姿勢から、あまりに精力的に、「積立金の運用」以外の「年金の問題点」(拙文《「年金」で「自己責任」を負わされる国民》にも引用させていただきました)を摘出しまくった為に、この根本問題がはぐらかされてしまったのです。
4) | 藤瀬氏に翻弄された(?)民主党 |
何故、民主党が「厚生年金」と「共済年金」との比較に取り組まないのか不思議でなりませんでした。
ですから、民主党内部に、年金議員が存在して居て、「厚生年金」運用の不具合をあまりはっきりと公にしたくないのかなとも疑いました。
でもそうではないようです。
どうやら、藤瀬氏の労作に翻弄されてしまったのかもしれないと思うようになりました。
先週の朝日ニュースター「パックインジャーナル」に於いて、日刊ゲンダイの二木啓孝氏が、次のように語っていました。
“藤瀬氏は、年金問題に詳しく、民主党も彼を呼んで意見を聞いている” |
旨を発言されました。
ですから、思ったのです。
民主党は、「年金は世代間扶養にドブ浸かりの藤瀬氏」に感化翻弄されていたのでは?と。
ですから、どうか、民主党は、藤瀬氏に翻弄されることなく、年金の本質を歩んでいる(と私は思っているのですが)「共済年金」と「厚生年金」を徹底的に比較検討して頂きたいのです。
改革は、その後です。
(補足:1)
日刊ゲンダイの二木氏と、同席していた紺谷典子氏(私は、彼女を「インチキ評論家と呼んでいます」)は、藤瀬氏の著作『年金大崩壊』と『年金の悲劇』をかざしながら、“この本はよい本です”と叫びながら、藤瀬氏の説を真に受けて“「厚生年金」も「国民年金」も黒字!”と叫んでいました。
そして、残念なことに、司会の愛川氏、番組構成の横尾氏は、紺谷発言に感激していたのです。
そして、同席の誰一人として、紺谷発言に異議を申し立てなかったのです。
困ったことです。
(補足:2)
積立期間を、20歳から60歳として、残り25年間受け取る場合を計算すると、毎年受け取る金額(Y)を毎年払った金額(X)で割った値は、4.46倍となります。
従って、年収の11%を収めていれば、11%×4.46=49.1%
一寸少ないと思ったら、年収の13.58%を収めていれば、13.58%×4.46=60.6%
と計算出来ますから、年収の60.6%を年金として受け取れるのです。